獣医病理学者Shinのブログ

動物の病気あるいは死体の専門家からみた、色んな動物や科学に関すること

結論から言います。

 

となりのトトロに出てくる「まっくろくろすけ」の正体は、「紙魚(シミ)」です。

 

反証はいくらでもできますが、あくまで私の勝手な解釈であることはご理解ください。

 

紙魚(シミ)とはシミ目シミ科に属する昆虫で、世界中に200種類以上います。

3億年以上も起源をさかのぼることができる原始的な昆虫で、あのゴキブリよりも起源が古いといわれています。

 

もともとは落ち葉や朽木などがある野外の環境に生息していますが、屋内に侵入して、本を食べる害虫として知られています。

 

本を食べるといっても、糊付けされた表紙などの表面をかじり取る程度で、穴を開けるほどまで食べることはありません。本の紙を穿孔させるまで食害するのは、シバンムシというまた別の虫です。とはいえ、古文書などへの被害は無視できません。

 

長く開いていなかった本を手に取ったとき、あるいは部屋に入って電気をつけた途端に壁などに、くねくねと素早く動く、1cmもないくらいの、どことなく気持ち悪い虫を見かけたという方も多いと思います。その虫が紙魚です。

 

ティッシュで押さえても軟らかいから捕まえたという感触がなく、つぶすと銀色の粉がついてしまいます。これは、全身が銀色や、やや黒色がかった光沢のある鱗片に覆われているからです。

 

となりのトトロで、メイがまっくろくろすけをつぶした時に手がススだらけになるところなんて、まさに紙魚をつぶした時に銀色の粉が付くところと似ていませんか。両者の色の違いはメラニンの量の違いによるものと思われます。

 

まっくろくろすけも紙魚も、どことなく気味が悪いけど人に悪さをすることはないということも同じです。

 

サツキとメイが戸を開けた途端にまっくろくろすけがサーっと逃げるところも、光を苦手とする紙魚が、光が当たった途端に音もなくサーっと逃げるところと共通しています。

 

まっくろくろすけは人が住み着いた家にはいなくなりますが、紙魚も本や家の中の環境をきちんと管理すればそんなに頻繁に見ることもなくなります。

 

サツキがメイを探しに出る終盤で、木のトンネルを抜けるシーンがあります。ここでまっくろくろすけがひょこっと姿を見せる描写があることから、紙魚と同じで本来まっくろくろすけも野外の落ち葉や樹皮などに生息しているものだと思います。

 

以上、私の独断により、まっくろくろすけの正体は紙魚という結論になりました。

 

紙魚という虫は、本を食べています。

 

私の部屋に生息している紙魚は、私の蔵書である獣医学、医学、動物学、生命科学といった本を食べていることになります。

もしかしたら私なんかよりたくさんの知識を詰め込んでいるのかもしれません。そう考えると、むやみに紙魚をつぶすのを躊躇したくなります。

 

まっくろくろすけや紙魚みたいに、正体がよく分からないから怖いというのは、今まさに起きている新型コロナウイルスについても言えることだと思います。ウイルスは目に見えなくて捉えどころがなく、恐るべき存在ではあります。しかし、私たちができる対策もあります。手洗いをきちんとすることと、三密を避けること、感染の機会を出来るだけ減らすこと。

 

必要以上にパニックになることやイライラすることは、とくに小さなお子さんがいる家庭では子どもを不安にさせてしまいます。正しく恐れながらも、楽しく前向きに過ごしたいものです。

 

みんな笑ってみな。おっかないのは逃げちゃうから

猫には、俗に三臓器炎と呼ばれる病気があります。その名の通り3つの臓器に炎症が起こる疾患です。英語でもそのままTriaditis3つを意味するtriad+炎症を意味するitis)と表記されます。

 

3つの臓器とは腸、膵臓、肝臓で、それぞれ炎症性腸疾患、膵炎、胆管炎という炎症を起こします。これらの病気は単独でも起こりますが、猫ではしばしば3つが併発するといわれています。

 

下痢が続いたり食べているのに体重が減って炎症性腸疾患と診断されたけど、実は膵炎や胆管炎もあった。嘔吐が続いて膵炎と診断されたけど、炎症性腸疾患や胆管炎も起こっていたということがよくあるので、一つの臓器の異常に捉われずに慎重に診ていく必要があります。炎症と思っていたら実はリンパ腫という腫瘍だったという場合もあります。

 

これらの異常は、死後の病理解剖で偶然に発見されることも少なくありません。生前に明らかな症状がなかったにもかかわらず、程度の差はありますが結構な頻度で見る機会が多いように思います。

 

胃から続く十二指腸には、膵臓から膵液を流す膵管と、肝臓から胆汁を流す胆管という二つの管がつながっています。胃から流れてきた食べ物を十二指腸の中で膵液や胆汁と混ぜることで、食べ物を消化して腸から栄養素を吸収しています。このため、十二指腸と膵臓(膵管)と肝臓(胆管)は密接な関係にあります。

 

十二指腸に炎症が起こった場合、十二指腸とつながっている膵管や胆管に異常が波及して、管を逆流して膵臓や肝臓にまで炎症が及ぶことが、三臓器炎に至る原因ではないかと言われています。胆管が何らかの原因で詰まってしまい、膵管や腸に異常が及ぶこともあります。 

 

まだまだ分からないことが多いですが、三臓器炎は猫に特有の病気です。

犬では胆管と膵管が別々に十二指腸につながりますが、猫では胆管と膵管が合流して一緒になって十二指腸につながる、犬より猫は小腸内に細菌が多い、猫では胆管が拡張したり蛇行したりと胆管の走行にバリエーションがあることなどが、猫に三臓器炎が多い理由としてあげられていますがまだ詳細には分かっていません。

 

ある程度年をとってくると三臓器炎に加え、腎臓も悪くなってきます。

最近では十数年前と比較にならないくらい診断技術が発達してきたので、炎症性腸疾患や膵炎や胆管炎も臨床的に診断しやすくなってきました。

 

しかし、死後の病理検査で直接臓器の異常を調べていくことも大切かと思います。症状、臨床診断、治療とその経過と、死後の病理検査の結果をすり合わせることで、病気の理解をより深めることができますし、動物が健康で長生きできることにつながるものと思います。

 

膵臓から十二指腸に膵液を流す膵管ですが、動物種によっては副膵管という2本目の膵管があります。犬と馬では膵管と副膵管が両方ありますが、牛と豚は副膵管しかありません。猫では膵管しかありませんが、時々副膵管を持つ個体もいます。ヒトも猫と同じパターンで1本の膵管が胆管と合流して十二指腸につながるようですが、副膵管を持つ人もいるようです。

 

膵臓は十二指腸に囲まれて存在しているやや細長い臓器で、豚や馬では人と比較的似ている形をしていますが、犬や猫ではもうちょっと薄くて細長い形です。げっ歯類のマウスではさらに薄くなり、ウサギではペラペラ過ぎて、初めて解剖したら膵臓と気づかないくらい薄い形をしています。一方、ヘビでは丸みを帯びた形をしていて、膵臓と胆嚢と脾臓が3点セットで存在しています。一方、魚類では膵臓として独立した臓器はありません。魚類の膵臓はお腹の中の腸間膜などに散らばって存在していて、魚種によっては肝臓の中に膵臓が混ざっていることから肝膵臓と呼ばれています。

 

色々な動物を病理解剖して病気を調べていると、病気を引き起こすメカニズムは比較的共通しているものの、動物種によって起こりやすい病気が様々であるとつくづく思います。その背景には動物の生態や食性、そしてそれらを反映した臓器の構造の違いなどがありそうです。そういったところから病気の本質に迫り、動物の理解を深めていきたいと思っています。

新型コロナウイルス感染防止の観点から、2メートル程度の社会的距離(ソーシャルディスタンス)の保持が推奨されています。

 

スーパーやドラッグストアなどでは間隔を保つためにテープで印を付けたりされていますが、人によって2メートルは短い、思ったより長いなど、ピンとこない方も多いと思います。

 

動物の病理解剖では、五感を駆使して臓器に表れる異常な変化(病変)を観察し、それを言葉に変えて記述していきます。

解剖の場にいなかった人が後からその文章を見ても、病変をありありと頭に思い浮かべることができるように記述する必要があります。

病理解剖は、「病変を言葉で撮影」しているのです。

 

病理解剖で病変の大きさや長さを記録するときには、定規やノギスなどを使って計測します。

 

しかし、メダカからアフリカゾウまで様々な動物の、多様でときに不規則な形をしている臓器の病変の表現として、実測値を示すだけでは分かりにくいことがしばしばあります。

 

病理解剖で観察される大きさや形、色、質感などは、即物的に自然界にあるものにたとえた方が、分かりやすい簡潔な表現になることが多いものです。

 

2メートルという社会的距離を、自然界にあるものにたとえてみましょう。

 

様々な動物を解剖してきた経験から、猫の腸管(十二指腸、空腸、回腸、盲腸、結腸、直腸)の長さがだいたい2メートルかそれに足りない程度という実感です。肉食動物である猫は消化しやすい食物を食べていることから、非常に短い腸をしています。猫よりも雑食傾向が強い犬では、もうちょっと腸が長くなります。

 

一方、コアラの盲腸はものすごく発達していて2メートルもあります。せいぜい1cmくらいかほぼないに等しい猫の盲腸と比べると、コアラの盲腸はとても長いです。ユーカリというエネルギーを得にくい植物を食べているコアラは、長い盲腸にたくさんの微生物がいてユーカリを効率良く消化しています。猫の腸が2メートルって聞くと短いと思うけど、コアラの盲腸が2メートルと想像したら長いと感じませんか。

 

先日解剖したかなり大きなアオダイショウが、2メートル近い長さでした。

まっすぐ伸びているヘビを見る機会は少ないので、2メートルのヘビといわれてもピンとこないですね。ちなみにヘビを解剖する際は、頭部の取扱いにはお気をつけください。鋭い牙があって、ほんのちょっとかすっただけでも出血します。私も一度不注意で指に刺さったことがありますが、毒ヘビじゃなくて良かったです。

 

その他の動物でたとえると、コウノトリの翼を広げた長さ(翼開長)がだいたい2メートルあります。これも実感がわきませんが、動物園でコウノトリを見かけたときにぜひ観察してみてください。

 

最近、無脊椎動物の病気を調べていました。無脊椎動物で2メートルいえば、最大のナマコといわれているオオイカリナマコが2メートルかそれ以上あります。目にする機会が多いマナマコが2、30cm程度ですので、2メートルのナマコと想像すると相当長いです。しかし、ナマコは伸び縮みが激しいので、2メートルの目安とするには少し難しい気がします。

 

細長いものの代表である寄生虫ではどうでしょうか。

マンソン裂頭条虫がだいたい1から2メートルあります。これが日本海裂頭条虫や広節裂頭条虫になると、最大で10メートルにもなります。ただ、寄生虫も長さにかなり幅があります。

 

動物で2メートルをたとえるとイメージがわきにくいようなので、次は私たちの体にあるもので2メートルを探してみましょう。

 

私たち人間の一つ一つの細胞には46本の染色体があって、そこには遺伝子が巧妙に折りたたまれて存在しています。この46本の染色体に含まれる遺伝子を伸ばすと、だいたい2メートルといわれています。実感がわきませんが、とりあえず遺伝子の情報量はすごいと思います。

 

その他には、腰から足にかけて伸びている坐骨神経がだいたい1メートルです。坐骨神経は私たちの体の中で最も長い末梢神経であり、左右にあるので2つの坐骨神経をつなげたらだいたい2メートルですね。ただ、坐骨神経も全長をこの目で見る機会はないので想像はつきにくいです。

 

以上、2メートルのものを色々と比較してみましたが、ものによっては短いと感じ、またあるものはとても長いと感じます。人によって感じ方も様々だと思います。2メートルの猫の腸は短いけど、2メートルもある人間の遺伝子はとてつもなく長いです。

 

2メートルという同じものを想像したとしても、どういう立場で見ているかによって見方がだいぶ変わってきます。2メートルを実感するには、色々な方向から見る必要がありそうです。

 

これはどんなことにも言えることだと思いますが、「全体の中での立ち位置を確認する」、ということが非常に大切だと考えています。自分にとってはこう思うけど、相手にはどう見えているか、さらにもっとひいて全体から見たらどのように映っているか。

色々な視点を持つことで、見えるものも変わってくるのではないかと思います。

ちなみに私が外に出て社会的距離を意識するときは、心の中でTT兄弟を想像しています。見知らぬ他人 もTT兄弟をやっていると思ったら可笑しくてちょっとニヤついてしまいますが、マスクをしているのでバレていないはず。

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