先日、猫に農薬入りのキャットフードを与えて殺害したというニュースがありました。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190225-00050256-yom-soci

残念なことに、動物に毒物を与えて意図的に殺害するという報道はたびたび耳にします。

また、非意図的あるいは偶発的に毒物に暴露されて、中毒を引き起こす動物にも比較的よく遭遇します。

 

原因不明で病理解剖をする中にも、中毒を疑う動物は少なくありません。

ただ、動物の場合は中毒の原因物質にいつ、どのように、どのくらいの量を暴露されたのかが
分からないことが多く、何かの中毒を疑うけど原因物質は不明ということもよくあります。

 

今回は、原因が特定できた猫の中毒の事例を紹介します。

 

春らしい暖かな日差しの4月初旬のある日、動物病院から電話がかかってきました。

亡くなった飼い猫が持ち込まれたので、病理解剖をして原因を究明してほしいとの依頼です。

 

飼い主からの情報によると、猫が突然口から大量の泡を出して、
けいれんを起こして亡くなったとのことです。

8歳、オスの雑種猫でこれまでとくに病歴はなし。

基本的に室内で飼育しているが外に出ることもあるので、
外で何か毒物を口にしてしまったのではないかとのことでした。

 

病理解剖をしたところ、体表には外傷などはなく、
内臓の各臓器にはこれといった異常はありませんでした。

消化管の中にも、中毒を疑う異物などは確認されません。

しいて言うとすれば、腎臓がほんの少し色あせていて、少しだけ大きいような印象でした。

臓器の大きさはある程度個体差があるので、肉眼的には何とも言えない病変です。

 

生前に病歴がなく、激しい症状で亡くなったにも関わらず、病理解剖ではこれといった肉眼的な
異常が見つからなかった場合、中毒あるいは感染症で極めて急性の経過で死亡した可能性を考えます。

 

病理組織検査によって顕微鏡で細胞や組織の異常を詳細に観察した結果、
腎臓が広範囲に侵されており、急性腎不全で死亡したことが分かりました。

 

ここであらためて中毒の可能性を考えて、飼い主の方に変わったことがなかったか聴取したところ、
飼い猫が亡くなる数日前にユリの花束をもらってきて部屋に飾っていたら、
猫が花に興味を示してかじっていたということが分かりました。

 

ユリは少量でも猫にとって非常に強い毒性を示し、ユリ中毒に陥った猫は
急性の腎障害を引き起こして亡くなることが多いため、注意が必要な植物です。

食べてしまってから腎障害を起こすまでの間は治療の余地があるかもしれませんが、
一度急性腎障害を引き起こすと、ほとんどの場合は致死的と思われます。

また、花だけでなく、葉や根、花粉、花瓶の水にも気をつけなければなりません。

猫の体に付着した花粉を、毛づくろいで口にしてしまうことにも注意が要ります。

 

ユリほど毒性が高くなくても、猫に中毒を引き起こす植物はたくさんあります。

植物だけではありません。

まわりには、動物にとって中毒の原因となる家庭用品や医薬品が意外と多いものです。

猫の場合、体表に付着した化学物質が毛づくろいによって口から暴露されて、
中毒症状を引き起こすこともあります。

 

今回紹介したのは家庭内での事例でしたが、外に出る猫の場合には、
農薬や除草剤などさらに注意しなければいけない化学物質がたくさんあります。

中毒症状を引き起こしたとしても、いつ、どこで、どのように
暴露されたのかが分からないことがほとんどです。

 

実際、外飼いの猫では明らかに中毒を疑う症状で亡くなる動物がけっこういますが、
原因物質まで特定されることは非常にまれです。

 

中毒のほかにも、猫の外飼いには感染症や外傷などのリスクが伴います。

また、近隣への糞尿被害もあります。

猫を外飼いすることは飼い主だけの問題ではなく、近隣の住民やまわりの環境にも影響を及ぼし、
猫にとっても多くの危険が伴います。

 

外に出さないのは可哀そう、という意見も多くあります。

しかし、大切なのは可哀そうかそうでないかの議論ではなく、
どうすることが動物によってより良いのかを考えることだと思います。

猫の病理解剖をしていると、外飼いの猫では苦しんで亡くなる猫が圧倒的に多いです。

 

そう考えると、猫を自由に外に出して飼うべきではありません。

中には冒頭のニュースにあるように、意図的に毒物が与えられるケースもあるかもしれません。

苦しんで亡くなる飼い猫を目の当たりにして、今後は絶対に外に出して飼わないと
言っていただける飼い主の方も多くいます。

 

身の回りには、私たちにとっては問題がなくても、動物にとっては摂取された場合に中毒を
引き起こすものがあり、最悪の場合には死に至ることも少なくありません。

 

3月に入り、そろそろ出会いや別れの季節が始まります。

花束や化粧品、嗜好品など色々なものをいただく機会が多くなると思いますが、
動物が誤って食べてしまいそうなものがたくさんあります。

動物が急におかしな症状を引き起こした場合には、焦らずにまずは状況を観察して、
何か変なものを口にしてしまったかどうかを確認するとともに動物病院に相談してください。
季節の変わり目は予測できない事故が起こりやすいです。
動物を飼育している方はくれぐれもお気をつけください。
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