背中にびっしり生えた針、愛くるしい姿、飼いやすい、小さいわりに寿命が比較的長い
などの理由から、ヨツユビハリネズミがペットとして人気となって久しくなりました。

 

人気の高さを反映して、最近では病理解剖や病理検査の依頼も増え、犬や猫以外の
いわゆるエキゾチック動物と呼ばれるペットの中では、最も多くなっています。

 

エキゾチック動物の診療を得意とする動物病院では、ハリネズミが来院しない日はない
というくらい診察の機会が増えているのではないでしょうか。

 

数年前のハリネズミブームで飼い始めたハリネズミが中高齢に差し掛かっているのか、
最近では腫瘍(がん)になるハリネズミが増えています。

理由は分かりませんが、もともと腫瘍になりやすい動物でもあるようです。

 

ハリネズミでは、いろいろな臓器に腫瘍(がん)がみられます。

皮膚、皮下、口の中、眼のほか、内臓の様々な臓器に腫瘍を経験します。

さらに、それぞれ別個の腫瘍が複数の臓器に発生することもあります。

 

近年では獣医療の分野でも、人と同様に腫瘍の診断技術や治療の知見が増えており、
早期発見の重要性が指摘されています。
しかしながら、
ハリネズミはその独特な外貌、臆病な性格から、早期発見が難しい動物です。

 

発見が遅れて腫瘍がかなり大きくなり治療が困難となることや、すでに全身に転移を
起こして手の施しようがないことも少なくありません。

死後の病理解剖によってはじめて腫瘍が見つかることもあります。

 

体のどこかにしこりがある、口のまわりが変形してきた、眼球が突出してきた、
などのほかにも、元気がなくなってきた、食欲がない、呼吸がおかしい、
よだれがたくさん出る、下痢をしているなど、
少しでも異変を感じたら早めに動物病院を受診してください。

 

最近では、レントゲンや超音波などの画像診断技術が発達しており、小さい動物の
小さい臓器でも、異常を早期から見つけることができるようになっています。

腫瘍が早めに見つかれば、完治が期待でき、治療の選択肢も多くなると思います。

 

ハリネズミを飼われている、またはこれから飼育される方は、異常がなくても
定期的に健康診断をかねて動物病院を受診されることをおすすめします。

1歳未満の若いハリネズミも腫瘍になることがあります。

また、頻繁に触れるべきではありませんが、腫瘍を早期に見つけるため、たまには
体を触れてみて、しこりや異常がないか確認してみるのもいいかもしれません。

 

一方で、アメリカではペットのハリネズミに由来するヒトのサルモネラ感染事例が
知られており、たびたび注意喚起がされています。

https://www.cdc.gov/salmonella/typhimurium-hedgehogs-09-12/index.html

サルモネラに限った話ではありませんが、動物にとっては問題ない病原体でも、
人に感染して何らかの症状を引き起こすことがあります。

 

とくに免疫が未発達の小さい子どもやお年寄りでは、少量の菌量でも発症して
症状が重篤になることもあります。

さらに、免疫抑制剤などを長期間服用されている方も注意が必要です。

 

動物を飼育されている方は、人ど動物は本来違う生き物であるということを理解し、
濃密な接触や口移しなど、過剰な触れ合いは避けるべきと思います。

ケージなどの飼育器具の洗浄も、できれば人が使う台所や洗面所は避け、
屋外で実施した方が良いかもしれません。

動物の世話をしたあとや食事の前には、しっかり手洗いをしてください。

それらを理解し、動物と適度な距離感を保つことができれば、
感染症を心配する必要はありません。

 

動物をかわいがる、かわいい、あるいはかわいそうと思う感情それ自体は、
決して悪いものではありません。

しかし、動物にとってはどうなのでしょうか、

私たちは、そろそろそのことについて考えていかなければいけないのかもしれません。

 

動物は、人と違って自分自身の不調や異常を直接訴えることができません。

そうであるならば、誰かがその声を拾う必要があります。

動物の遺体には、動物が生きてきた証が刻まれています。

そんな声なき動物の遺体に耳を傾け、動物の死としっかり向き合うことを通して、
人と動物がより良い関係を築き、そしてより良い社会になれるように
少しでも貢献していきたいと思っています。
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