新年度が始まって1ヶ月が過ぎ、入学や入社などで新生活を始めた方は、
そろそろ慣れてきた頃でしょうか。

 

生活が落ち着いてくる5月の連休前後になると、新たにペットを迎えるという方が
毎年結構いらっしゃいます。

一人暮らしの方にとっては、もちろんデメリットもありますが、
家に動物がいることの恩恵は大きいものです。

 

一方、例年この時期には、新たに飼い始めた動物の事故死が目立つように思います。

自分自身の新生活に慣れるのに時間がかかるのと同様に、動物を飼育することは、
動物にとっても飼育者にとっても慣れるのに時間を要します。

 

今の時期ペットショップに行けば、たくさんのインコの雛がケースに
並んでいることと思います。

気候な穏やかな春は、インコにとっても飼い始めるのに適した時期と言えます。

 

動物の飼育に慣れるまでには、不慮の事故が多いものです。

今回のテーマは数ある動物の事故死の中でも、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の
過燃焼による鳥の呼吸器障害です。

 

ポリテトラフルオロエチレンというと長くて覚えにくいですが、
焦げつき防止のフッ素樹脂加工、いわゆるテフロン加工されたフライパンが代表的です。

 

テフロン加工されたフライパンの危険性は、愛鳥家にはご存知の方が多いと思います。

しかし、初めて鳥を飼う方にとっては、身近に意外な危険があることを知り
驚かれる方も結構いらっしゃいます。

 

テフロン加工されたフライパンを空焚き、あるいは強火で加熱しすぎると、
粒子を含む有毒なガスが発生し、鳥の肺に障害を引き起こして呼吸不全や死に至ります。

 

このことを知らないで台所の近くに鳥のケージを置いていたり、換気をせずに
調理をしていると、知らない間に加熱によって発生したガスに鳥が暴露されて、
突然死になることも少なくありません。

 

テフロン加工はフライパンだけでなく、鍋、クッキングシート、ホットプレートなどの
調理器具の他、アイロンやヒーターなどの家電製品に使用されていることもあります。

 

多くの場合、適切な使用できちんと換気されていれば問題はないかと思いますが、
何かのきっかけや誤った使用で高温が続いたり、換気が不十分であったりすると、
ガスが鳥に暴露される可能性があります。

 

動物を飼育していると思わぬ事故がつきものであるため、鳥を飼育している家庭では、
そのような製品を使用しないのが一番いいかもしれません。

 

鳥の呼吸器の特徴

人では問題になることが少ないPTFEが、なぜ鳥では致死的となるのか。これは、
鳥類が効率的に酸素を取り込める特有の呼吸器を持っていることに理由があります。

 

鳥では、気嚢(きのう)という呼吸器官が肺に続いて存在します。

肺の前部と後部に大きく二つの気嚢群があります。

気嚢が空気を出し入するための吹子(ふいご)の役割を果たし、
肺は酸素と二酸化炭素の交換のみを行います。

 

一方、私たち哺乳類には気嚢がないので、
肺がガス交換と空気の出し入れの両方をしなければなりません。


また、哺乳類の肺は気管支が分岐を繰り返して最終的に肺胞という盲端に終わります。

そのために、新鮮な空気と排泄する空気が混ざり合うことになります。

 

一方、鳥類の肺では肺胞という盲端に終わらず、一次気管支から分かれた二次気管支が、
ガス交換をしている傍(ぼう)気管支を介してつながっています。

このことによって、空気が常に一定の方向に流れます。

 

取り込まれた空気が、後部の気嚢→肺→前部の気嚢と、常に後方から前方へと流れ、
呼気と吸気のどちらの際にも空気が肺の中を移動します。

 

さらに、実際のガス交換の場である含気毛細管が、毛細血管と複雑なネットワークを
形成しており、たえず新鮮な空気と血液が接することで、効率的なガス交換が行われています。

 

それゆえに、飛ぶために必要な大量の酸素を取り込むことができ、
さらに酸素が乏しい高度での飛行も可能とされています。

 

鳥は効率が良い呼吸システムを持ったために、
空気中の有害物質に対しても感受性が高いと言えます。

 

炭鉱で一酸化炭素などの有毒なガスをいち早く検知するために、
生きたカナリアをケージに入れて炭鉱に持ち込んでいたことはよく知られています。

また、過去にオウム事件の強制捜査の際にも、カナリアが利用されました。

 

同じように、PTFEの過熱によって発生した有毒なガスが、鳥類特有の呼吸器の構造に
よって肺に暴露されやすく、鳥では感受性が高くなっているようです。

 

しかし、鳥だけでなく人でも、テフロン加工された製品を空焚きしたまま長時間放置して
しまった場合などに、ポリマーヒューム熱と呼ばれる肺障害を引き起こすことがあります。

またつい最近、犬でも死亡例が報告されました。

 

鳥類では、通常の使用でも換気が不十分であったりケージが台所の近くにある場合には、
呼吸困難の原因となったり時には死に至ることがあります。

 

一方で、人やその他の動物でも、通常規定されている以上の使用やうっかりした
事故によって、日常生活でも起こりうることだと思います。

 

もうすぐ大型連休が明け、新生活疲れや連休疲れの方もいると思いますが、
そういう時には気の緩みから思わぬ事故が見られます。

動物にとっては、それが時には死に至るケースも少なくありません。

 

飼い主が疲れていたり、生活リズムや環境が変わった際には、
予期せぬ事故がよく起こりますので、どうかご注意ください。