動物や植物など真核生物の細胞には核と細胞質がありますが、哺乳類の赤血球には核がありません。哺乳類だけに核がない理由にはいくつかの説がありますが、まだよく分かっていません(というより、説明すると長くなりそうなので)。
赤血球をはじめとする血液細胞の大もとは、骨髄に存在する造血幹細胞です。
造血幹細胞が分裂して数を増やし、少しずつ特徴を変えていきながら、リンパ球、単球、顆粒球、血小板、赤血球という様々な血液の細胞を生み出していきます。
赤血球の場合、造血幹細胞からいくつかの前駆細胞を経て、最終的に赤芽球から赤血球へと変化します。
赤芽球の段階までは核がありますが、赤芽球が核を放出して脱核することで赤血球ができるということは、周知の事実でしょう。これは間違いありません。
脱核というと、あたかも赤芽球から核だけをポコっと放出しているようなイメージがあるかもしれません。実際には、赤芽球から放出された核の周りには、細胞膜と少量の細胞質を伴っています。
中に餡子が詰まったお餅を想像してみてください。餡子が苦手で食べたくないとして、きれいに餡子だけを取り出すのは至難の技だと思います。餡子を取り除くとしたら、お餅を握りながら親指と人差し指で輪っかを作って、少量のお餅に包まれた餡子をお餅の本体と切り離すのではないでしょうか。赤芽球の脱核というのは、このようなイメージだと思います。
赤芽球が細胞膜に包まれた核と、核を持たない赤血球に分かれるということは、これも細胞分裂の特殊な形と考えることができます。
赤芽球が細胞分裂することによって、赤血球と、ほぼ核だけの細胞に分かれる。
実際、核を放出するときにはアクチンとミオシンによる収縮環がつくられて、くびれるようにして脱核が起こっています。収縮環というのは、お餅から餡子を取り出す時の親指と人差し指のような感じです。
細胞が分裂して二つになる場合、まず核分裂が起こり、それに引き続いて細胞質分裂が起きて細胞が二つに分かれます。
赤芽球では、核分裂が起きないで細胞質分裂が起きていると考えると、脱核というよりはむしろ細胞質分裂と考えた方がすっきりしないでしょうか。
もっとも、赤血球になれなかった核を持った方の細胞は、すぐにマクロファージに食べられて消失してしまいます。赤血球になれなかったばかりに、生まれたらすぐに食べられてしまうとは、その細胞にとっては不本意ではないかと思われるかもしれません。
しかし、核を持った細胞の表面には、ホスファチジルセリンという物質が露出しています。ホスファチジルセリンは別名「eat meシグナル」と呼ばれていて、マクロファージが認識して食べる目印になっているのです。赤血球になれなかった一方の細胞は、自ら食べてくださいという標識を出して、マクロファージによって食べられているのです。
細胞分裂というと、一つの細胞から全く同じ二つの細胞に分かれるというイメージが大きいかもしれません。これを等分裂と呼びます。
一方、一つの細胞が異なる特徴をもつ二つの細胞に分かれることを不等分裂といいます。
赤芽球が赤血球と核をもった細胞の二つに分かれる現象も、不等分裂の一種とみなしていいのかもしれません。また、造血幹細胞が等分裂しか行わないとすると、いくら分裂しても造血幹細胞しか生まれません。造血幹細胞も不等分裂によって、一方は造血幹細胞に留まりながら、もう一方は血液の細胞に変化していくようになっているのです。