今日はアトキソプラズマ症という病気を紹介します。

トキソプラズマとは違います。名前がそっくりですがアトキソプラズマとトキソプラズマは別の種類です。

 

トキソプラズマはネコ科動物を終宿主とする寄生性原生動物(原虫)の仲間で、ほとんど全ての哺乳類と鳥類が感染します。

人では特に妊娠中に初めて感染した場合、流死産や子どもに先天性トキソプラズマ症を引き起こすことがあることで知られています。また、免疫不全または免疫抑制状態の患者では重篤な症状を起こすことがあります。

 

トキソプラズマの頭に「ア」が付いたアトキソプラズマも、トキソプラズマと同じ原虫の仲間で、アピコンプレックス門コクシジウム亜綱真コクシジウム目アイメリア亜目のレベルまでは同じ分類に入ります。

 

アトキソプラズマはトキソプラズマと形も似ており、過去にはトキソプラズマの仲間とされていたこともありました。

 

トキソプラズマは全ての哺乳類や鳥類に感染すると言われていますが、アトキソプラズマの宿主はかなり限られているのが特徴です。

アトキソプラズマが感染するのは、鳥類の中でもスズメ目に限定されています。

 

アトキソプラズマはスズメ目鳥類の小腸で有性生殖をして、血流に乗って様々な臓器に運ばれ、そこで無性生殖によって増殖します。無性生殖で増殖する際にそこの臓器にダメージを与えることで、病気や死亡の原因となることがあります。

腸から糞便に排泄されたアトキソプラズマは、他の鳥に経口感染します。

 

私自身は、ペットの鳥類ではこれまで診断したことがありません。ただしブンチョウやカナリアにはいてもおかしくないと思います。野鳥ではスズメやムクドリ、動物園ではスズメ目のいくつかの鳥でときどき見かけます。

 

成鳥では他の病気で死因を調べていたらたまたまアトキソプラズマを見つけることが多くて、病気や死亡と関係することはあまりありません。

 

問題になるのはヒナに感染した場合で、肝臓や脾臓で増殖してしばしば致死的になり、立て続けにアトキソプラズマ感染によって死亡することがあります。

 

成鳥では感染していても症状がないことが多いので、成鳥の糞中に排泄されたアトキソプラズマがヒナに感染してしまって、死亡することが多いように思います。

ただし、同じ群れのヒナでもアトキソプラズマ症で死亡する個体とそうでない個体もいることから、それ以外にも発症する要因があるかもしれません。

 

スズメやムクドリ、ヒヨドリといった小さな野鳥はなかなか詳しく死因を調べる機会がありません。人為的、あるいは物理的な要因による死亡が多いと言われていますが、その背景にはアトキソプラズマのようなあまり知られていない感染症ももしかしたらあるのかなと思ってちょっと気になっています。これからは生態系を考えるときには、動物やそれを取り巻く生息環境だけでなく、微生物や病原体についてももっと考えていかなければいけないと思っています。

 

最後に、アトキソプラズマの顕微鏡写真を紹介します。黄色い丸で囲っている小さな粒々がアトキソプラズマですが、それ以外にも無数にいます。見慣れないと難しいですが、トキソプラズマよりはサイズが一回り小さいです。
 肝臓 HE染色 400倍