犬や猫などのペットでは、獣医療の発達のおかげもあり寿命がどんどん伸びて、がんになる動物が増えています。

ウサギ、ハムスター、フェレット、ハリネズミ、インコ、ブンチョウといったいわゆるエキゾチックペットと呼ばれる動物も、がんと診断される機会は年々増えていますし、動物園の動物も高齢化が進みがんが多くなってきました。

 

哺乳類や鳥類は比較的がんになることが多い一方で、爬虫類は従来からがんになりにくいと言われていました。爬虫類は変温動物であり、恒温動物の哺乳類や鳥類と比べると代謝が緩やかだから、がんになりにくいというイメージです。

 

しかし、最近では爬虫類でも割と普通にがんと診断することが増えてきていると感じています。

爬虫類には大雑把に言うと、ヘビ、トカゲ、カメ、ワニ、ムカシトカゲの仲間がいます。

それぞれの中にも様々な種類が含まれるため一概に言うことは難しいですが、爬虫類の中ではヘビのがんが一番多く、トカゲにもまあまああって、カメやワニでは時々みられるという印象です。

 

これはなんとなく私が感じていることですが、爬虫類の主な死因としては、これまで飼育環境の不備が最も大きな要因でした。現在でもそれが大きいことは変わりません。

以前にこのブログでも取り上げたことがありますが、「爬虫類を飼うということは、周りの環境も含めて飼うということ」です。

http://vetpath.blog.jp/archives/16953425.html

 

変温動物である爬虫類は、周りの環境に依存して生きています。そのため、飼育環境をきちんと用意しなければ、適切に成長しない、代謝に異常をきたす、餌を食べないなどの理由によりあっけなく死に至ります。(全く餌を与えずに飼育環境もめちゃめちゃで放置状態なのに、平気そうにぴんぴんしている個体も時々みますが)

 

ペットとしての爬虫類飼育が徐々に一般に普及してきて、中には初心者でも飼育しやすいポピュラーな種類がヘビ、トカゲ、カメの中でいくつか知られるようになってきました。

それらの種類は餌も良質なものがコンスタントに入手でき、飼育器具も様々なものが市販されるようになってきたことから、普通に飼育していれば死なせることはなくなってきています。

 

ペットとしての爬虫類が定着しつつあり、飼育方法が確立されてきて長生きできるようになってきたこと、爬虫類に愛着を感じる飼い主が増えてきたこと、そして爬虫類を診察できる獣医師が増えてきたことなど複数の要因があいまって、爬虫類のがんが増えてきているのではと考えています。

 

爬虫類の中では、ヘビでがんを見る機会が一番多いです。個人的には、爬虫類の中ではヘビが最小限の設備で手間もあまりかからず一番飼いやすい種なのではと思っており、そのような理由で長生きするヘビが増えているからがんも多いのでしょうか。海外ではウイルスに関連したヘビの腫瘍がいくつか報告されており、もしかしたらそのような要因もあるかもしれませんが、国内ではそこまで詳細な検索はされていません。

 

トカゲもがんを診断する機会が比較的増えており、中でも皮膚にがんが発生することが多いです。トカゲの飼育ではいくつかの照明器具を必要とする種がいて、もしかしたら紫外線の照射や不適切な熱源などが皮膚のがんと関係しているのではと想像することがあるのですが、これは考えすぎでしょうか。あるいはケージにぶつかることによる皮膚の物理的な損傷ががんと関係しているのかもと思いを巡らせることもありますが、ちゃんと検証したわけでも調べたわけでもありません。

 

カメではまだ傾向はそれほどつかめていませんが、口の中のがんをいくつかのリクガメでみたことがあり、水棲カメではお腹の中の卵巣や肝臓のがんを経験しています。

 

爬虫類以外の変温動物である両生類や魚類ではどうか。

爬虫類より頻度は低いですが、両生類や魚類にも稀にがんを見る機会があります。

また、恒温動物である哺乳類や鳥類ではがんが増えてはいますが、がんになりやすい動物とそうでない動物がいるようです。
そういった色々な動物のがんからアプローチしていくことで、ヒトのがんについての理解も深まるような気がしています。

 

犬や猫といったメジャーな伴侶動物でさえ、病気や治療や死因に関して分からないことがまだまだ多くあります。ウサギ、ハムスター、フェレット、ハリネズミ、インコ、ブンチョウといったすっかり定着したエキゾチックペットでも、現状では死因を調べる機会がほとんどありません。このような状況ですから、爬虫類や両生類、魚類、無脊椎動物の病気や死因についてはほとんど調べられていません。そのような動物の病気や死に関する理解を深めるためには、もっとしっかり検証していく必要があります。

 

私は動物種を問わず様々な動物の病気や死因に興味があります。死は誰にでも訪れるものですが、残念ながら現代においては死を身近に感じることが少なくなってきました。動物の死としっかり向き合うことで、かけがえのない命や生きることについて考えるきっかけになります。私たちは、動物の死からもっと学ばなければならないと考えています。色々な動物の病気や死因を調べることは動物を助けるためだけではありません。命や生の大切さに気づくきっかけにもなりますし、人の病気の理解にもつながり、自然環境を守ることにもなるのではと思っています。